Last Journey(79)50年目の再会
ファーストジャーニーのとき、私はロンドンで2週間ホームステイをしました。お世話になったルーカスさんご夫妻。奥様はすでに亡くなられていることは知っていましたが、ご主人はもしかしたらご健在かもしれない。そう思い、メールを出しました。けれども戻ってきてしまい、息子さんへのメールも届きませんでした。やはりご主人も亡くなり、家も他人の手に渡ったのか──そんな思いを抱きながら、ビクトリア駅からビックリー駅へ
ちなみに、この駅名「Bickley(ビックリー)」には思わずびっくりですね。駅を降り、住所を頼りに50年前の記憶をたどりながら歩きました。途中、懐かしい地名の標識に何度も胸が熱くなります。なかでも「Merrydown Way」の文字を見たとき、当時の感情が一気に蘇りました。
駅から歩くこと20分。あの懐かしい家が視界に飛び込んできました。外観はほとんど変わっていません。まるで今にも牛乳配達の車の音が聞こえてきそうです。ドキドキしながらチャイムを押しました。応答なし。ステイしていた2階の窓は開いているのに。もう一度チャイムを。やはり返事はありません。思い切って大きな声で呼びかけました。
やはり、ダメかと諦めて帰ろうとしたその時、裏から大きな男性が現れました。人生はドラマチックです! 彼の名前はサイモンさん。十数年前にルーカス家を購入したとのことでした。私が50年前にここで暮らしていたことを伝えると、驚いたように私を家の中へ招き入れてくれ、ジンジャーエールまでご馳走してくれました。一緒にいた二人の子どもを紹介してくれ、各部屋を案内してくれたのです。
外観は昔のままでも、家の中はほとんど改装されていて、別の家に。その違いに50年という歳月を感じました。さらに話をしていると、近所のお爺さんが偶然に顔を出し、サイモンさんが私を紹介してくれました。ルーカスさんの名を出すと「とてもいい人たちだった」と涙ぐんでいました。
イギリス英語に苦戦し、何度も撃沈されたあの頃のホームステイ。私にとっては大切な人生の1ページです。サイモンさんには感謝、感謝。そして、ルーカス家を引き継いでくれたのがこんなに温かい人であったことにも感謝しながら、私は次の約束の場所へ向かいました。